一人で指すがひとりじゃない
桐山零五段が懇意にする川本家の次女ひなたを襲うクラスでのいじめ。いじめられる友だちをかばったせいで、彼女が新たな標的にされたのだ。それに対処すべき担任は、むしろひなたを悪者にして、見なければいつか問題が消えてなくなると思っている様な態度をとる。
桐山零は彼の心を救ってくれたひなたに恩返しがしたい。でも自分に出来るのは結局将棋だけ。だからこそ彼は初めて欲をもって、勝つために将棋を指す。その賞金でひなたがどうなっても助けられるように。
勝ったり負けたりを繰り返しながらではあるが、順調に新人王戦を勝ち抜いていく桐山零。そんな彼の練習相手となるのは、桐山の心友を自称する二階堂晴信五段だ。互いに決勝で対局すべく、それぞれが死力を尽くす。しかし…。
いじめの問題は難しい。なにが難しいかって、最善の落とし所である元通りには、絶対に戻らないからだ。それに、人によって落とし所は異なってくる。誰もが満足いく解決なんて、果たしてあるのかどうか。
ただひなたの救いは、彼女が正しいと全面的に肯定して、それに寄り添ってくれる人たちがいること。そして彼女もそれを受け入れていること。あとはそれを支えにして、自分が正しいと思う道を進めば良いと思う。誰がそれを妨害しようとも。
そして二階堂晴信の事情を知った桐山零。彼のモデルは故・村山聖九段なのだろうから、彼がどれだけ死ぬ思いをして将棋を指しているかは推して知るべし。
将棋は相手と自分、二人で指すもの。盤上ではひとりで戦わなければならないが、その指し手に至るプロセスには、様々な人の想いが介入し、彼を支えてくれている。そのことを今回、桐山零は実感するのだろう。
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