ピンチの時こそ人間性が現れる
亜城木夢叶の「PCP」に対して、ネット上の50人からアイデアを募るというやり方で宣戦布告した七峰透だったが、彼の思惑は外れ、連載は迷走状態に入る。
もやは「PCP」に対する敵愾心しか残っていない七峰は、ついに「PCP」のネタをパクろうとするという、落ちるところまで落ちるのだが…。そのとき、彼の編集である小杉が取った行動は?
七峰透と熱血編集・小杉のやり取りも熱くて良いのだが、実績のない新人×新人という組み合わせなので、どこか上滑りしている印象を受けなくもない。まあこれは少年の視点ではないので、少年漫画としての評価には何の関係もないけれど。
そしてこれまた少年ではない視点から言うと、中井巧朗への言及をしないわけにはいかないだろう。今巻の中井さんはとにかく人間として最低な行動を取りまくる。自己中心的な欲望で、他人に迷惑を掛けまくる。もやは社会的にダメな人だ。
しかし、ニッチな職業を夢見て挑戦した人間は、得てして中井さんの様な状況に陥りやすいのもまた事実だ。ほどほどの才能があったばかり、いつまでも夢を諦めることが出来ず、しかし何もかもかなぐり捨ててのめり込むほどはせず、結局何者にもなれないまま、宙ぶらりんの状態になってしまう。もはや進む道も見えず、退く道は無くなってしまっている。そんな状況の匂いを少しでも嗅いだ事がある人なら、自分が中井さんの様になっていたかもしれないことを否定は出来ないだろう。
そう思うと、平丸一也が中井さんを救う理由として挙げたことは、読者各人に適した言葉となって、ストンと胸に落ちて来る。それはさながら、高木秋人と真城最高が語りあった、「あしたのジョー」のパロディの台詞の様にだ。
今回は他にも、シュージンが落ち込んでいた時にかける香耶の台詞など、人間的に沁みるシーンが多い気がする。