薔薇十字団は、17世紀初頭のドイツでその存在がしられるようになった秘密結社である。
しかし、実態はなく、架空のものだとも言われている。どういうことなのか?
1614年からドイツで刊行された『友愛団の名声』、『友愛団の告白』、
『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』という著者不明の
3冊の書物がドイツのインテリ層の注目を集めた。
そこには、クリスチャン・ローゼンクロイツなる貴族の生涯が書かれていた。
彼は1378年ドイツに生まれ、16歳のときに東方へ知識を求める旅に出た。
旅の中で賢者達と交流し、あらゆる叡智を身につけたのだ。
しかし、彼の知識は先進的すぎて、ヨーロッパでは誰にも理解されなかった。
仕方なく、昔の同胞7人にその叡智を伝えていく。これこそが、薔薇十字団の始まりである。
当時のヨーロッパ世界は、宗教改革が浸透しており、カトリック教の権威は失墜しつつあった。
そんな中、突如出現した東方的秘教(薔薇)とキリスト教(十字)との統合世界の創造という発想。さらにローマ教皇に対する露骨な宣戦布告。
これが、当時のインテリ貴族の憧れとなったのだ。
こうして入団希望者が続出。あの哲学者デカルトも入会しようとしたほどだ。
だが、誰も会の本部や受付場所、メンバーや活動内容さえ知らない。
中には、団員を騙り、詐欺を働く輩もでるくらいだ。
そうまでして彼らが薔薇十字団に憧れたのは、ローゼンクロイツが古代の叡智、
とくに錬金術の奥義を入手していたとされていたからだ。
さらに、創設メンバーは不老不死を実現し、チベットの山奥で隠遁していると信じる者もいた。
こうした情景はヨーロッパ全土に広がり、薔薇十字団が見つからないのなら、
創設すればいいという動きにつながる。
実際、薔薇十字団の系譜にあたる結社は多い。
ちなみに、3冊の書物のうち『化学の結婚』については、
ドイツの著述家で聖職者のヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ(1586-1654)が
自分の作品だったと認めている。
他の2冊も、彼の仲間が執筆したものだったとする説が有力である。
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