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小林可夢偉がF1デビューを果たしたのが丁度一年前。2009年の日本GPの金曜日フリー走行から走っていたのだが、当時から関係者の間では評価が高かった。そして次戦ブラジルGPで2009年チャンピオンJ.バトンを何周も封じ込め、評価は一気に高まる。あれから1年経ったかと思うと感慨深いものがある。
当時から非常に気になっていたのだが、彼はコースアウトをしてもマシンを大破することがほとんどない(ミスで壊したのはカナダGPとシンガポールGP決勝ぐらい)。マシンを大破しないということは非常に重要な点だ。マシンを壊せばメカニックから信頼を失う。信頼を失えばチームの居場所がなくなる。居場所がなくなればチームから追われる。そのことを猛烈に教育されているから、どんなことがあってもマシンを壊さないのだと思っている。
またオーバーテイクやブロッキングでも大胆に見えて実は非常に繊細で頭脳的な部分を感じていた。“情熱と冷静のあいだ”という言葉があるが、彼に最も相応しい言葉であるまいか?話している事を聞く限り「おもろい、あんちゃんやな」で終わるが、なかなかその裏では非常に勤勉で勉強家なことが分かる。
そして彼のレースで特徴的なのは、タイヤ交換を自分のペースで進める点だ。
タイヤ交換で前車が入ったから自分も入るというパターンが多いが、可夢偉に限ってそれはほとんどない。今回の日本GPでもプライムで38周まで引っ張ったが、あの高温でしかもミューの高い西コースを含めてよく持った(というか持たそうと思った)。その一見無茶とも思えるが、きっちりとした論理的判断を持っている点が素晴らしい。
また可夢偉のレースで面白いのは、フリー走行でダメでも予選でマシンを良い所に持っていくとか、予選でダメでも決勝で良い所を持っていく点だ。このしぶといメンタルティーな部分が今までの日本人F1ドライバーになかった点である。現在チャンピオンシップの真っただ中だが、中盤まで見る影もなかったアロンソやヴェッテルが首位を追いかけている状態である。彼らの考え方は「最後に勝てばいいんだろ」的な思考方法だ。諦めが悪いというかシツコイというか、どちらかというと日本人が嫌がる思考方法が、彼らの原動力となっているように思える。だが彼らもけしてヤケクソで闘っているわけではない。最後まで闘うためにギリギリまで論理的に詰めているのだ。
可夢偉を見ていると本当に彼らのメンタル的な部分が似ていると思う。結果を残すためには“カミカゼ”でもなく“波乱”でもない。ただひたすら“最善を尽くす”、この一点に集約されているのであって、可夢偉はそれだけのために闘っているのだと思う。この一点が今までの日本人F1ドライバーと比べて可夢偉が勝っている点だと感じている。
で、ボクは鈴鹿の130Rで観戦していたが、ザウバーのマシンはお世辞にも良いとは思えなかった。開幕に比べて意外にバンプの対処は良くなったが、カーブの出口でオーバーが出たりどうにもバランスが良くない。ハイドフェルドのマシンの方が悪くなく、可夢偉の予選を見る限り「こりゃ、だめだな」と思った。
しかしレースが始まると、ご存知の通り「可夢偉のオーバーテイクショー」の始まりである。正直あれには驚いた。鈴鹿では1台抜くたびに観客席から大歓声が起こっていた。そのオーバーテイクのほとんどがヘアピンだったが、そこに陣取っていたお客さんは幸せ者だっただろう。ただ良く考えると、彼はセクター1のタイムが良かったし、ヘアピンに向けて作戦を練っていたのだと思う。ただ、彼のインに車を滑らせる技術やアウトからでも抜きにかかる技術は一級品だった。そしてもっと評価していいのは彼のガッツである。確かに何とかしないと上に行けないのだが、彼のドライビングを見ていると「やっぱり、モータースポーツは人の闘いなんだ」ということに気づいてしまう。
よく「鈴鹿は抜けない」というコメントを聞くが、抜けないと聞いて本当に抜けない奴は一生ダメなんだろうと思う。そんな訳知り顔のコメントなんて知らねえよ、という奴がワールド・チャンピオンになるんだろうと思えてならない。また可夢偉のドライビングを見ていると、鈴鹿で抜けないなんて考えたことがないようにも見える。可夢偉の将来は本当に明るい。ボクはレースを見てそう思った。
最後になるが、小林可夢偉というドライバーは若いながら、自分が活躍しないと日本のF1の将来がないと真剣に考えている人だ。そう考えて結果を残しているのだから、本当に大したものである。厳しい経済情勢ではあるが、もっともっと支援してくれまいか?パナ○ニックさん、お願いしますよ。そしてボクが愛読していたパ○ソニックさんのF1サイトが復活してくれれば言うことはない。
※先日10月4日にF1コラミニストの西山平夫氏が亡くなりました。氏のコラムはボクも愛読していたため、非常に悲しく思っています。謹んでご冥福をお祈りします。
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