死を直前にした終末期に、延命措置などの医療や介護を「過剰だ」として望まないお年寄りが増えている。「亡くなり方の質」を追求し、穏やかな最期をめざす。その姿に死生観の変化を読み取り、日本の死の「スタンダード」が一変すると予想する声も出始めた。「自然死」が急増する、というのだ。
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千葉県松戸市の黒田美津子さん(79)は、昨年5月に80歳だった夫の正さんを看取った。
「肺腺がんでした。見つかった時はすでにステージ4で、『余命3カ月』と言われましたが、亡くなる1カ月ほど前までの1年以上、平穏な状態が続きました。好きな囲碁を打ちに行ったり、仲間と芝居を見に行ったりで、ふだんと変わらない生活でした」
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医者には抗がん剤による治療をすすめられたが、「高齢だから」と断った。
「もともと、どんな場合でも延命治療はしないと主人は決めていました。いつ、そうなるかわからないので、文書にもしてありました」
正さんが作った「病重篤・死亡時に関するメモ」には、こう記されている。
「私たち夫婦は、尊厳死を強く希望しますので、不治の病(事故等による損傷を含む。)と診断された時、一切の延命措置は不要です」
痛みが激しくなったため、最後の約2週間は病室で過ごしたが、食事はできるだけ自分の口からとり、食べられなくなってからも点滴はしなかった。
「『葬式は家族葬で』とか、『お坊さんも戒名もいらない』など、自分の死後のこともメモに残していました。作るのはさぞつらかっただろうと思います。最後の日は荒い息遣いが続き、長男が駆けつけるのを待っていたかのように、静かに逝きました」
がんによる死だが、正さんは自らの意思を貫き、望まない治療は一切受けなかった。延命治療を拒否するメモに「私たち夫婦は……」とあるように、美津子さんも同様に考えていて、実は自らもメモを作っている。正さんのものより、中身はさらに具体的だ。
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