今年はメゾンのルーツである“クチュール”を前面に打ち出したシャネル。今までもガブリエル・シャネルを強調したものはあったが、これほどフォーカスするとは予想外だった。
1979年、フランス生まれ。ストレート・スクール・オブ・デザインを卒業後、フランスの時計・宝飾ブランドに勤務。2013年5月、シャネルに現職として入社。「プルミエール」「J12」「ボーイフレンド」「コード ココ」「ムッシュー ドゥ シャネル」などのデザインに携わる。彼が手掛けた時計は、2017年、2018年、2019年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリにおいて3年連続で受賞した。
アルノー・シャスタンは語る。「私たちのDNAにはガブリエル・シャネルと、クチュールがある。もっとも、私がクチュールからインスピレーションを受けたのは、これが初めてではないんだ。3年前にはボンをモチーフにコレクションを作ったし、そもそも1987年誕生のプルミエールもバッグのチェーンをデザインに取り入れている。クチュールは私たちとともにあるものなのです」。とは言いつつも、その背後には、ガブリエルへの彼の敬愛が見え隠れする。「いつも、カンボン通りの彼女のアトリエを訪問すると、とても感銘を受けるのです。グラフィックな世界があり、特別な創造のエネルギーがある。全く違う世界で、エナジーを得られる。私はこの場所がとても好きなのです」。彼の目を引いたのは裁縫道具だった。
「私はアトリエにあるツールにも魅せられたのです。ハサミとか、ピンクッションとかね」。もっとも、さまざまなシャネルの“遺産”から、あえて裁縫道具を選んだのには理由がある。「ガブリエル・シャネルのアーカイブを見ると、彼女はピンクッションを着けていた。そして首にはリボンを通したハサミを着けていた。ジュエリーのようにね。彼女はこういうツールでも遊んでいたんだと思う。それで、裁縫道具をモチーフにしたネックレスを3つ作ったんだ」。
「私の仕事はアイデアを出すこと。オートマタを加えたいと思ったのです。スイスの工房の技術者は苦労したと思います。その際重要なのは、
エルメス コピー技術的解決策を見つけ、時をリスペクトすることだと思う。時は最高の友人なのです」。ちなみにシャスタンは、本作で、永遠の定番と見えるJ12の外装にも少しだけ手を加えている。マットなケースに面取りを加えて艶を与え、造形を強調してみせたのである。
「高級時計の世界では違いを出すことが重要です。違うサボアフェールというのは、セラミックスも同じでしょう。そこでJ12のケースのエッジを落とした。私は光が好きだし、J12が持つ精密さも強調されるでしょう?」
しかし、ガブリエル本人は時計を作らなかった。シャネルで時計を作るとはそもそもどういう意味なのか?
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