この3つの効果があるシリコンは、時計に使われるヒゲゼンマイにとって理想の素材でした。先に説明したように、ヒゲゼンマイは、温度、磁気、衝撃などで不安定になると、時計の精度が悪化します。温度変化はニヴァロックス素材のおかげで解決していましたが、磁気の影響は問題でした。シリコン製のヒゲゼンマイは、「磁気の影響に強い」というメリットをもっています。さらに、「変形へ強い」ことにより耐久性も期待できます。
また、高速で動く部品が故に、部品を軽量化するとトルクのロスが減るメリットもあります。シリコン素材を利用すると、パワーリザーブの向上が見込めるでしょう。まさにシリコンは、ヒゲゼンマイにとって理想なのです。
しかし、このメリットが多いシリコン製ヒゲゼンマイにも、欠点もあります。
欠点のひとつは、「壊れやすさ」です。ピンセットなどで組み立てするとき、つかみどころが悪いとすぐに破損してしまうといわれています。そのため、製造の面でも相当技術力が必要と聞きます。
さらに別の欠点は、「湿気への弱さ」です。ただし、基本的に腕時計は内部に湿気が入らない構造にするため、通常は「湿気への弱さ」は影響がないように見えます。しかし、腕時計の防水性は時間とともに落ちていきます。そのため長期的に見ると、時計内部に湿気が入ることも想定できるので、やはり「湿気への弱さ」はシリコン製ヒゲゼンマイの欠点になります。現に、湿気の影響でシリコン部品がいきなり壊れた報告もあるようです。
このように欠点もあるシリコン製ヒゲゼンマイですが、開発メーカーも弱点の克服に研究を進めているようです。今では、開発初期のころより性能が向上しているようです。
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